研究活動研究者インタビュー:田中 健司

  • 田中 健司Kenji Tanaka
    リハビリテーション学科視機能療法専攻

研究を始めたきっかけを教えて下さい

視能訓練士として就職した病院で臨床研究に関わったのがきっかけです。当初は主に検査データを収集することで多くの研究に関わっていましたが、次第に自身の臨床での疑問を自身で明らかにするような研究をしたいと考えるようになりました。そこで研究手法を学ぶために、夜間制の大学院に入学し、昼は臨床、夜と休日は大学院という生活を2年間続けました。体力的にも精神的にも厳しいと感じることもありましたが、大学院の担当教授や所属施設の医師の指導のもとで修士号を取得することができました。

現在取り組まれている研究テーマについて詳しく教えて下さい

主に緑内障に関する研究しています。具体的には、日本緑内障学会の研究班に所属し、緑内障の早期発見・治療に関する研究をしています。また、個人としては、新しい医療機器の精度や有効性を検証する研究や緑内障患者のQOL(生活の質)に関する研究をしています。

緑内障は、40歳以上の5%に認められ、年齢とともに有病率は増加する傾向にあります1,2)。また、緑内障は、日本の成人における視覚障害新規認定者の主原因疾患の1位です3)。高齢人口の増加や平均寿命の延長により、重症化する患者の増加も懸念されていることから、緑内障に関する研究をすることは、社会的意義のあることだと思っています。

具体的にはどのような研究や活動をされているのでしょうか

緑内障患者のQOLに関する研究については、緑内障患者のQOLを調査し、病期別に検討しました。また、関連要因として特にソーシャル・サポートに着目し、その関連を明らかにしました。

ソーシャル・サポートとは、ある人を取り巻く重要な他者(家族、友人、同僚、専門家など)から得られる様々な形の援助のことです。緑内障とQOLの関連を調査した研究では、視機能の低下がQOLを低下させることが明らかとなっていますが、臨床の現場では、視機能障害が軽度でもQOLが低下していると思われる患者や同程度の障害でもQOLに差があると感じる患者に遭遇します。緑内障は長期にわたって治療が続くため様々な支援につながりにくいと言われています。一方で、疾患に対する情報や精神的サポート、家族や周囲の人の理解を求める声が多いという報告があります。したがって、ソーシャル・サポートの強さが、緑内障患者のQOLに何らかの影響を与えているのではないかと考え、QOLとの関連を調査しました。

研究から明らかになったことを教えて下さい

緑内障患者のQOLは、自覚症状がほとんどないとされている初期患者であってもQOLが低下していることや、ソーシャル・サポートが充実している患者ほど、QOLが高いことが明らかとなりました。このことから、初期からの支援が必要であること、また、支援方法としてソーシャル・サポートが有効であることが示唆されました。視能訓練士の業務内容のひとつとしてロービジョンケアが挙げられます。ロービジョンケアとは、見えにくさを様々な方法で補いQOLの改善を促す支援のことです。今回の研究の結果から、ロービジョンケアとしてソーシャル・サポートを促進させるような支援を行う必要があると考えます。

今後の研究の展開について教えて下さい

緑内障患者のQOLは、特に「心の健康」が初期から低下していることが明らかとなったため、精神的健康に着目して調査を行いました。現在、その関連要因を検討した論文を執筆中です。

今後は、ソーシャル・サポートを促進させる具体的な支援方法を検討する必要があります。緑内障患者のQOLは病期の進行とともに低下することが明らかとなっているため、病期によって有効なサポートが異なるのではないかと考えます。どの病期で、誰からのどのようなサポートが有効であるかを検討していきたいと思います。


  1. Iwase A, Suzuki Y, Araie M, et al: Tajimi Study Group, Japan Glaucoma Society: The prevalence of primary open-angle glaucoma in Japanese: the Tajimi Study. Ophthalmology 111, 1641-1648, 2004.
  2. Yamamoto T, Iwase A, Araie M, et al: Tajimi Study Group, Japan Glaucoma Society: The Tajimi Study report 2: prevalence of primary angle closure and secondary glaucoma in a Japanese population. Ophthalmology112, 1661-1669, 2005.
  3. Morizane Y, Morimoto N, Fujiwara A, et al: Incidence and causes of visual impairment in Japan. the first nation-wide complete enumeration survey of newly certified visually impaired individuals. Japanese Journal of Ophthalmology, 63. 26-33, 2019.

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